名古屋地方裁判所 昭和43年(行ウ)55号 判決 1969年12月13日
名古屋市南区元桜田町二十八番地
原告
渡辺万里
右同所
原告
渡辺香代子
右同所
原告
渡辺規矩雄
右原告等訴訟代理人弁護士
竹下重人
名古屋市熱田区花表町一番地
被告
熱田税務署長
浜野律治
右指定代理人
松沢智
服部守
井原光雄
山下武
主文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
事実
原告等は昭和四十年分贈与税について被告が昭和四十一年六月三十日付書面で原告等に対しなした更正処分(昭和四十一年十月十九日に一部取消がなされた後のもの)はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として(一)原告等は昭和四十年分の贈与税についてその法定期限内にそれぞれその年に取得した財産の価額金四十五万二千七百六十円、これに対する贈与税額金七千九百円とする確定申告を被告に提出した。(二)右贈与税の申告は原告等が渡辺宗平からその所有にかかる名古屋市千種区猪高町大字高針字西山二百三十三番の宅地百二十六坪(一坪は三・三〇五七平方メートル)の土地(甲物件と呼称する。)を昭和四十年一月十四日に贈与され、原告等がそれぞれ共有持分を三分の一とする共有者となつた事実に基いてなされたものである。(三)右の申告に対し被告は昭和四十一年六月三十日付通知書をもつて原告等それぞれに対しその年に取得した財産の額金九十六万円、これに対する贈与税額金十万円とする更正処分をした。(四)右の更正処分は右(二)の贈与の事実を否認し、右甲物件は渡辺宗平が所有者としてこれを第三者に売却し、その売却代金として取得した金二百八十八万円の現金を原告等に均等に贈与したという被告の認定に基づくものであつた。(五)原告等は右(三)の更正処分につき昭和四十一年七月二十日被告に対し異議申立をしたところ被告は同年十月十九日原告等のそれぞれにつき昭和四十年に取得した財産の価額を金七十五万円、これに対する贈与税の額を金五万五十円とする旨原更正処分の一部取消をなしその頃その旨を原告等に通知した。(六)原告等は右一部取消後の更正処分になお不服であつたので昭和四十一年十一月十四日付で名古屋国税局長に対し審査請求をなしたところ同局長は昭和四十三年八月十五日に原告等の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を行い、その頃原告等それぞれに対しその旨を通知した。(七)右(五)の被告の決定の理由、右(六)の名古屋国税局長の裁決の理由は原告等が昭和四十年一月十五日斉藤信一から買受けて共有持分各三分の一とする共有者となつた名古屋市千種区猪高町大字高針字小畑四番の二十八の山林五畝歩(一畝は三十歩、一歩は三・三〇五七平方メートル)(乙物件と呼称する。)の買受代金金二百二十五万円の三分の一宛を渡辺宗平から贈与されたものである。とするものであつた。(八)しかしながら原告等の右(一)の申告は事実に基づくものであつて、被告は事実の認定を誤つて違法に本件更正処分をしたものであるからその取消を求める。被告の主張事実中課税の経緯の点を認め、課税の根拠(一)のうち仮装行為の点を否認し、(二)の点を争い、これは贈与税の課税価額の計算は贈与された物件の相続税財産評価基準による評価額によるものとする通常の取扱に反する。この点に反する被告の反論と甲物件の時価の点を争う。と述べた。
被告は原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。との判決を求め、答弁として、請求の原因たる事実(一)の点を認め、同(二)のうち原告等主張のごとき申告のなされた点を認め、その余の点を争い、同(三)乃至同(七)の各点を認め、同(八)の点を争い課税の経緯における右申告、更正並びに異議決定の内訳は(原告三名とも同じ。)
区分 申告 更正 異議決定
その年中に取得した財産の価額 四五二、七六〇円 九六〇、〇〇〇円 七五〇、〇〇〇円
基礎控除 四〇〇、〇〇〇円 四〇〇、〇〇〇円 四〇〇、〇〇〇円
基礎控除後の課税価額 五二、七〇〇円 五六〇、〇〇〇円 三五〇、〇〇〇円
算出税額 七、九〇〇円 一〇〇、〇〇〇円 五五、〇〇〇円
申告より増加した税額 九二、一〇〇円 四七、一〇〇円
過少申告加算税額 二、三五〇円
重加算税額 二七、六〇〇円
であり、右(五)の一部取消は原告等の異議申立により被告が再調査した結果原告等が渡辺宗平から贈与された金額は甲物件の譲渡代金ではなく、乙物件の取得代金金二百二十五万円の三分の一である金七十五万円と認められたからである。
右課税の根拠
(一) 被告は渡辺宗平がその所有の甲物件を原告等に贈与登記手続をしたのは渡辺宗平が租税負担の軽減回避を図るための仮装行為であり(別件昭和四三年(行ウ)第五四号参照)、しかも原告等が乙物件を取得しておられるがその取得代金は渡辺宗平から金銭贈与により取得したものであると認めた。右贈与登記を仮装行為と認めた理由は実質的には渡辺宗平が既に第三者に売却した甲物件につき原告等に贈与登記がなされるという常識を逸脱した極めて不自然な行為がなされたことにある。各般の証拠によると甲物件を売却したのは渡辺宗平であると推認しうる。
(二) 仮に原告等が甲物件を贈与により取得したものであるとしても(1)これは第三者に譲渡することを前提としてなされたことになる。贈与登記のなされた昭和四十年一月十四日以前から第三者たる買主は右土地の埋立工事に着手し、結果的には贈与の日から二ケ月足らずで売却されたことになる。このように贈与の時点において既に実質上第三者に売却がなされ売却対価も確定しており、従つて売却されたと全く同視されるような場合における本件土地の価額はその譲渡代金の贈与を受けたことと実質上何等変らないものというべきである。したがつて本件土地の贈与税における価額(時価)は渡辺宗平が売買取引の交渉で成立させた譲渡価額金二百八十八万円(三・三〇平方メートル当り金二万五千円)とみるのが相当である。(2)仮に右贈与登記のなされた時点における時価は昭和三十九年五月における右土地の買受価額金二百六十万二千七百四十円(三・三〇平方メートル当り金二万六百六十四円)を下ることはない筈である。いずれにしても被告のなした原告等に対する更正処分額の合計額は金二百二十五万円で右金二百六十万二千七百四十円の価額より下回るので本件更正処分は何等違法でない。尚被告の仮定主張に対する贈与税の課税価額の計算に関する原告等の主張については国税庁長官の昭和三十九年四月二十五日付直資五六「相続税財産評価に関する基本通達」は課税庁部内における財産の評価方式について一定の方式を採用して課税し税負担の公平がそこなわれないようにしているが、これによつて定められた相続税評価基準によつて評価することが著しく不適当と認められる場合は右評価基準に準拠する必要はない旨同通達で定められている。(同通達六)甲物件はすでに述べたように実質上第三者に売却がなされた土地であるから本件贈与のときにおける時価を相続税評価基準で評価する必要は毛頭ない。既に売却されたと全く同視される甲物件自体の贈与であり、原告等に対する名義上の贈与登記後二ケ月足らずで売却されたのであるから受贈者にとつてみれば売却した土地代金の贈与を受けるのと経済的利益を享受するという面においては実質的に何ら差異を生ずるものでなく、右の場合税負担の公平の見地からも土地売却代金の贈与と同様に取扱うのが相当である。尚又甲物件の右購与登記当時の時価は各般の証拠に徴すると三・三〇平方メートル当り金一万九千五百九十円となる。いずれよりするも本件更正処分は何等違法でない。と述べた。
証拠として、原告等は甲第一乃至第五号証を提出し、証人高木盛市、同加藤一、同渡辺宗平の各証言を援用し、乙第一、第二、第十六、第十八乃至第二十二、第二十六、第二十七号証の各成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べ、被告は乙第一乃至第二十七号証を提出し、証人村松篤一、同浜嶋正雄の各証言を援用し、甲第一、第三、第五号証の各成立を認め、甲第二、第四号証の各成立は不知と述べた。
理由
請求の原因たる事実(一)の点同(二)のうち原告等主張のごとき申告のなされた点、同(三)乃至(七)の各点、被告主張の課税の経緯における右申告、更正並びに異議決定の内訳の点は当事者間に争がなく、右甲物件が渡辺宗平から原告等に贈与された旨の原告等の主張事実に副う甲第一乃至第五号証、乙第一号証の各記載部分、証人渡辺宗平、同加藤一、同高木盛一の各証言部分は後記認定説示とこれに供する各証拠に対比して措信しがたく、却つて、乙第十七号証、成立に争のない乙第二、第十六、第十八乃至第二十二号証、第三者の作成にかかり真正の成立を認むべき乙第三乃至第十五号証、名古屋国税局協議官の意見聴取書であるから真正の成立を認むべき乙第二十三、第二十四、第二十五号証、証人村松篤一、同浜嶋正雄の各証言に右高木証人、加藤証人の各供述の各一部を合せ考えると渡辺宗平の原告等に対する右甲物件の贈与は被告所説のごとく渡辺宗平が租税負担の軽減回避を図るためになした仮装行為であり、真実は渡辺宗平が右甲物件を処分した金員中より原告等に右乙物件を買受ける資金を贈与したことが十分認定でき他に右認定を覆えすに足る証拠はなく、又右各証拠によると前記異議決定は相当で、これを取消すべき瑕疵も認められない。果して然らば爾余の争点について判断をなすまでもなく原告等の請求は失当であることが明らかであるのでこれを棄却し、民事訴訟法第八十九条により主文のように判決する。
(判事 小沢三朗)